ニコニコ座談会とインタビューまとめ

昨日のエントリの拡張版です(昨日はなんか誘導質問っぽい書き方になっていたので反省).長いので覚悟の上,お読みください.たぶん,こんなに長いエントリはこれが最初で最後だと思います….

一日目:座談会

まずは,日曜日に行われた座談会の方から.個人的にある程度大きなトピックかなと思われたのは,

  • 祭りについて
  • 削除と権利関係
  • 動画へのアクセス経路

でしょうか.これらについてはすでにtaitokuさん(id:taitoku)さんと敷居さん(id:sikii_j)が上手にまとめられていますが,もう少しだけ補足という形で細かい話を載せておきます.
まず「祭り」についてです.ニコニコ動画で発生する「祭り」は,以下の三種類に分けられるのではないかという形で落ち着きました.

  • 視聴者が殺到する「祭り」(視聴者型)
  • 同じテーマの動画が一斉にあがる「祭り」(アップロード型)
  • コメント職人の「祭り」(コメントアート型)

主催者のぐっずさん(id:metagold)は,この他に「タグ戦争はどうか」という趣旨の質問をされていましたが,その場では「当事者以外には気がつきにくいよね」という見解で一致していた気がします(翌日,この辺をもう少し説明することになりました.)
次にこれらの「祭り」がどのように発生するのかという点についてです.一つ目の視聴者型については,キリ番の時,主にランキング(主にPV数)からの参入が一番多いのではないかという意見で皆さん納得していましたが,他にも2ch,特にVIP版(ニュー速かな?)からの参入もあるのではという意見(「○○から来ました」のようなコメントを見たことがある)もでていました.この辺は,共通認識として良いのかな?
個人的には「祭り」の起きるタイミングを考慮する必要があるのかどうかという点が気になっていました.投稿されてすぐに盛り上がった場合,これを「祭り」とするのかどうかということですね.個人的な感覚からすると,投稿直後ではなく,一定の期間を経て盛り上がる場合(初動のPV数よりも多くなった時)を祭りとしたいのですが,おそらくマイナな定義でしょうから,特に発言は控えていました.この辺,他の方の考えを聞いておくべきだったのかもしれません.
アップロード型の祭りについては,その場ではアイマス(ニコマス)クラスタの住人が半数を占めていましたので(笑),底'z が例としてあがっていましたが,自然発生的なものとしては,Caramelldansen の動画が有名かもしれません.
参考:Caramelldansen 〜 ウッーウッーウマウマ(゚∀゚) | なつみかん。
コメントアート型については,割愛します.花火みたいなものだと思っていただけたらと思います.コメント職人さんが集まるのも,再生数などのキリ番にあわせてのことが多いので,最初の視聴者型との区別は難しいかもしれません.
二つ目のテーマの削除と権利については,皆さん,割とあっさりとした態度.これはもう仕方がないと.まぁ,微妙な問題ですし,やぶ蛇にならないようにしているというのがちょうど良いのではないかと.海外だと何で消すんだーと声を上げることもあるようですが,この辺,お上には逆らわないという日本人的な姿勢があるような気もしますが,証拠がないのであくまで感想です.
最後の動画へのアクセス経路については,結構個人差が大きそうな問題でした.世代との相関性が高そうですが,おおむね,

  • 若い人 -> ランキング重視.2ch経由もあり.≒流行ベース
  • 年寄り -> カテゴリ(ジャンル)重視.ブックマーク経由もあり.≒嗜好ベース

みたいな傾向があった気がします.この分け方自体,信憑性には乏しいものですし,そもそも年齢と傾向はあんまり相関性が出るとは思えませんので,あくまでも参考としてまとめたまでです.
が,この傾向がまったくのナンセンスかというと,それなりに理由付けができてしまうんですね.年を取ってくると,頭も固くなって,好み以外の動画を受け付けにくくなるし,集団にあわせて盛り上がるのも苦手になってくる.そうなると,どうしても狭いカテゴリーに安住する方が多くなるでしょう.反対に,若い人は知識の範囲が狭く,様々なものを比較検討した上で自分の好みを確立できていることが少ない.でも,元気はあって,誰かと盛り上がりたい,わくわくしたいという気持ちは強いから盛り上がっている方へ流れていく傾向が強い…のかなと.
これは良い悪いの問題ではなくて,そういうもの,つまり自然な傾向の結果として認識しておいた方が幸せになれるような気がします.こうあるべきだって思うとなかなか大変ですよ.
ちなみに,分かった範囲で参加者の年齢は,下が24歳,上が30歳でした.こう見ると非常に狭い範囲の話ですね.過度の一般化は避けた方が無難でしょう.
言葉の問題では,座談会で通訳をしてくださったマークさんが「素直」という言葉を英語にできなくて悩んでました.「従順」というのともちょっと違うし,うーん.「素直」という言葉が分からないと「ツンデレ」もそりゃ分かりにくいでしょうねぇ.
コメントにお答えして:「マイナーバンドの話」
ええと,マイナーバンドというと怒られるかも(笑).あくまでニコ動ではマイナーってことで.2chのスレッドでニコ動の動画が紹介されると,そちらを見に行って楽しむ.そして,また2chに戻るという流れですね.結構,このケースはありそうな気がするんですけど,実際はどの程度の範囲で観測できるんでしょうか.あと,ライブDVDは買ったけど,ニコ動でみんなと盛り上がりたいぜという妻の話をしたら「ノロケか!」と皆さんに突っ込まれたのが不思議です(笑).
はてブから補足:http://d.hatena.ne.jp/britishstudies/20080603/1212471000

メタデータ」に焦点をあわせているということは、動画を通じたテクストによる非同期コミュニケーションというよりは、むしろ動画への「タグ付け」に焦点を合わせているんだろうなあ、と予想。

もともとはそういう観点から目を付けたそうです.が,いろいろと調査するうちに,だんだん「ニコニコ動画」自体をもっと掘り下げたいという欲求が出てきたとか.昨日は,動画のタグについても,いろいろとお話をしていきました.
Metadata プロジェクトは,スコット・ラッシュ教授がリーダとなって,情報学と文化人類学との共同で行われているリサーチです.加藤さんの予想通り,今回のニコニコ動画の研究は,エスノメソドロジー研究がメインのようですね.一応,参加者はインフォーマント(情報提供者)として取り扱いますよと説明を受けた上での参加です.
あと,どうでもよいことですが,この日に自転車盗られました.しょんぼりです.

二日目:ディスカッション

昨日は,研究室にて3時間半ほどのインタビュー(とディスカッション)を行いました.どこまでオープンにして良いのか分かりませんので,こちらからお話しした内容をざっと紹介しておきます.あと,ニコマスの話題は省略します…(キリがないので).
主にお話した内容は,(研究関係を除くと)日曜日にあまり議論できなかった「空気」と「タグ」について.もっとも,私自身「空気」研究が専門というわけではないので,あくまでも,語用論(どちらかというと談話研究といった方がよかったかもしれません)の観点から自分なりの見解を述べたに過ぎませんが….
「空気」については,日本の談話空間における「空気」そのものを定義して説明するのは非常に難しいので,逆の方向から攻めることに.つまり,「空気が読めていない(空気を乱す)」発言を観察することで,どうしてその発言が「空気を壊しているのか」を見てもらうことにしたわけです.ここから,何となく「空気」のあり方を見てもらいました.
結論から言うと,発話の場の「背景知識(事実)」を指摘することは空気を壊すことにはならない(空気が読めない発言ではない)けれど,発話の場に参加している人の「内面状態」を明らかにする(もしくは,内面状態を自覚させる)発言は,空気を壊すということになります.
説明の例として使ったのは,「鉄道ビデオ:新幹線、北へ──sm464098」です.実際に,見てもらえば分かりますが,在来線の特急を早回しにして新幹線っぽく(予定されている北海道新幹線の速度に合わせて)再生した動画です(さっき,冒頭から見直してみましたが,ちょっと空気の説明に使うには,空気の存在が弱かったかな?).大体,どの動画でも同じような発言は目にすることができますので,適当に選びました.
この動画の3:06に「何かの特急を倍速にしてるだけだな(赤字)」というコメントと,そのすぐ後,3:07に「そんな事は皆わかってるっての」というコメントがでてきますが,これらが対象となります.
われわれ日本人の感覚からすると,「何かの特急を倍速にしてるだけだな(赤字)」という発言が空気を読んでいない(空気を壊そうとしている)ことは,比較的理解しやすいのではないでしょうか.この発言が,空気を読んでいないと感じられる理由は,動画自体やそれを取り巻く情報,その場のコメントから読み取れる「背景知識」を述べたからではなく,他の動画視聴者がこの動画をどのように判断しているか,どのような感情を持って視聴しているかといった「心的状態」を表出しているからと考えられます.つまり,この動画では「新幹線から撮ったもの」と思い込んで見る姿勢が求められているのに,このコメントは皆が理解している事実をあえて指摘する事で,その姿勢に水を差しているわけです.
ぐっずさんは,この例を「implicit(暗黙的なもの)をexplicit(明確にする)にする「attack」の例」としてまとめておられました.ちなみに,ぐっずさんはガーフィンクル(Harold Garfinkel)が行った実験に似ているという感想を持ったようです.どういう実験かというと,お巡りさんに対し,あなたの服の形には青い線の階級の印がついていて,どうこう…というような,「implicit(暗黙的なもの)をexplicit(明確にする)にする」発言を続けると通常の会話がなりたたなくなる(そして,相手がお巡りさんという権威を失う)ということを確認したものなのだそうです.論文を読まないと詳細は分かりませんが,個人的な感想では,これは会話の公理の違反じゃないかなと思ったので,その辺を紹介.
あの時は英語版が見あたらなかったのですが,興味のある方はこちらを参考してください.Cooperative principle - Wikipedia
空気を読んでいないコメントは,ガーフィンクルの実験の例とは違い,基本的に会話の公理は満たしていることがほとんどです.その意味において,空気を読んでいないコメントは,会話そのものを成立させないわけではありません.
もう一つの例は,裸の王様の寓話において,子供が王様が裸であることを指摘した発言です.ぐっずさんは,この例を「implicit(暗黙的なもの)をexplicit(明確にする)にする「innocent」の例」としてまとめられていました.
この二つを西洋ではどうしているのかと尋ねると,「innocent」の方は教育する(educate)が,「attack」の方は放っておくという返事でした.そもそも,「attack」の方は単に事実を示しているだけなんだから,特に問題とは思わないとのこと.一方,日本ではこの二つとも特に区別はせず,両方とも「空気を読め」という扱いを受けると説明しておきました.
単に事実を示しているという点ですが,このこと自体は特に問題ではないと考えます.つまり,暗黙の事実を指摘する事はよいが,それが参与者の心理(この動画は新幹線であるという思い込み)に影響するかどうかの方が大事となります.また,ここで「これは早い新幹線ですね」という発言がなされていれば,これは参与者の心理を直接は明らかにしないので,皮肉にはなっても,ぎりぎり空気は守られるのではないかと返答しました.
結局のところ,ニコニコ動画において「空気を読む」とは,コメントや同じジャンルの他の動画から読み取ることのできる「他の視聴者の心理状態を理解する」ことであると言えそうです.もっとも,難しいのはどのような言語情報がどのような心理状態を表しているかということなので,この指摘自体は目新しいものでもないと思いますが.ニコニコ動画が他の場と異なり,比較的参入しやすいのは,コメントの存在時間が限られている点と,時系列に沿って流れていく点によって,「空気を読む」ために必要な,参照すべき言語情報が少ないことによって,「空気」が絶対的なものになりにくい点にあるのではないでしょうか,というのが私の現時点での感想です.
ぐっずさんのもう一つの興味であった「タグ戦争」についても,この観点から説明しました.動画横断的な「背景知識」とそれによる「心理状態」が,各ジャンルの支持者によって形成されているわけですが,ある時,他のジャンルから人が流れてくると,元々の支持者の「心理状態」を無視した,他のジャンルの流儀に沿った「タグ」をつけることがある.もしくは,自覚的に元々の支持者の「心理状態」を逆なでする「タグ」をつける.この二者の間で,タグ戦争が起きるのではないかという仮説です.
ちなみに,ニコニコ動画のタグに関しては,過去のタグ(文脈)を知るためのシステムが用意されていません.はてなブックマークにおける「おすすめタグ」のようなシステムがあれば,タグ戦争も少しは減るのではないかという考えを,はてなのシステムと併せて少し説明しました.これで「はてな」にも興味を持ったようです.そのうち「はてな」の研究も始められるのでしょうか.あと,タグの基準についての議論は,2chで確認した限りではアイマスくらいしかなかったので,一応そのスレッドを紹介しました.これにはかなり興味を惹かれたようで,後でじっくり読むそうです.翻訳するおざぶさん(id:kausina)が大変そう….

とまあ,まとめるのが下手なせいでこんなにだらだらしたエントリになってしまいました.ここまで読んでくださった方,どうもありがとうございました.アイマス最高,まで読んだ方もお疲れ様でした.