GTDについて誤解していた5つのこと

GTD とは

 GTD という仕事術があります。「Getting Things Done (上手くいくさ)」の頭文字を取って、GTD というわけです。アメリカでも日本でも、一部の人には大人気の手法と言うことで現在でも実践している人は多いのではないでしょうか?
 かく言う私も GTD の存在を知って、昨年から何となく試してみていたりしました。ただ、どうも言われているほど効率がよくなったり、仕事が上手くいっているようには思えなかったんですね。
 最初、私が手にとったのは、『ストレスフリーの仕事術 (abbr. ストフリ仕事術)』と『Life Hack PRESS (abbr. LHP)』の2冊でした。『ストフリ仕事術』の方は、GTDの提唱者であるデビット・アレンさんの「続編」版とでもいう本で、日本語に訳された GTD 本の中では、当時もっとも評判の高いもだったと記憶しています。また、『LHP』には GTD を実践レポート風にまとめた記事があり、実際に GTD をしてみようとする際には、大いに参考となりました。

ストレスフリーの仕事術―仕事と人生をコントロールする52の法則

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Life Hacks PRESS ~デジタル世代の「カイゼン」術~

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 しかし、この2冊を読んで GTD を分かったつもりになった私は大きな勘違いをしていたのです。そのことが分かったのは、昨年末に新訳として登場した GTD のオリジナル本『ストレスフリーの整理術 (abbr. ストフリ整理術)』を読み終えた直後でした。
はじめてのGTD ストレスフリーの整理術

はじめてのGTD ストレスフリーの整理術

 なぜ、私が GTD をやっても上手くいかず、すっきりできなかったのか、何を誤解していたのかをまとめてみました。GTD を正しくできている人にとっては、何を今更みたいに思われる内容かと思います。実際、私も『ストフリ整理術』を読み終わった後に気がついたことですので。
 ですので、もし、GTD をやってるんだけど、上手くいかない、もしくは、GTD は役に立たなかったという人がおられましたら、ぜひ一度『ストフリ整理術』の方を読んでみてください。きっと同じような感想を持つのではないでしょうか。「ああ、なんだ。そういうことなのね。」って。

誤解その1 「GTD はお金も労力もいらない方法である。」

 『ストフリ仕事術』でも『LHP』でも、紙とペンからだけでも始められるように紹介されているので(実際、それはある意味間違いではありませんが)、手軽にできると思ってしまいます。私も気軽に始められたのですが、次第に上手くいかなくなってきました。書類はたまるし、買い物は忘れるし、締め切りは……おっと。
 確かに GTD の中心となるシステムは、紙とペンなどのような簡単なもので始めることができます。そして、その延長上で続けることのできるシステムに見えます。しかし、一番の誤解は、GTD が仕事を回すためだけのものではない、ということです。
 GTD が対象とするのは、気になるすべての「こと」と「もの」です。ですので、それを行うには相応の準備が必要となります。『ストフリ整理術』にもこのようにあります。

"GTD を実践するには、まずは物理的な場所が必要だ。……(中略)……こうした機能的な作業空間は絶対に必要である。それらがそろっていない人は、今すぐ確保してほしい。すべてを管理するこうした拠点がないと、GTD はうまく機能しない。" (『ストフリ整理術』 pp.88-89)

 実際にどれくらいのものが必要となるかについては、88ページから103ページに書かれているので、参考にしてほしいと思いますが、ざっと見積もってファイルキャビネットや書類トレー、備忘録システムなどの構築に数千円、場合によっては数万円の出費が必要です。私の場合、約1万数千円くらいかかった計算になります。

誤解その2 「GTD で最初にするべきことは、頭の中にある、気になることをすべて書き出すことである。」

 一つ目の誤解にも通じることですが、GTD が対象にするのは、気になる「こと」だけではありません。その中には「もの」も含まれます。そのために、機能的な作業空間といった物理的なシステムを構築するわけです。
 普段からものが整頓されていて、書類の流れがスムーズである人にとっては何ら問題にならないことなのですが、どこかに自分の知らない、分からないものがあるという状態が、結局のところ、ストレスの原因になると言うことを覚えておく必要があります。
 だから、最初にするべきことは頭の中にあることを書き出すことではなくて、その前段階、すなわち、

"実体のある身の回りのもので、あるべき状態にないものを探し、inbox に入れること" (ibid. p.109)

になるわけです。inbox というのは、GTD をかじったことのある人なら、ご存じと思いますが、すべてのものごとが入ってくる場所のことです。気になる「こと」だけであれば、最初に書き出す紙にあたるわけですが、物理的なシステムの場合、気になることは紙に書き出して、書類トレーなどの物理的な inbox に集約するのが一番だと思います。

誤解その3 「一度気になることを書き出したら、後は週次レビューを行うだけでよい。」

 GTD のキモは、実は頭の中のことを書き出すことによって、inbox を空にするところにあるわけではありません。実際には次々にやってくる気になる「こと」や「もの」に対して、どのような物理的な行動をとるか、判断するところにあります。GTD ではこの判断のことを、処理と呼んでいますが、どのように処理するかこそが、GTD で一番大変なことであり、頭を使う部分でもあります。
 処理とは、あることに対して、それにはどのようなゴール、つまり結果がふさわしいかをイメージするということです。次にすべての事柄に対して、目的を考え、自分の価値観に従って、実現の条件を設定します。これによって、現状と結果の間のギャップが分かりますから、これを埋めていくための要素を洗い出して、整理します。その中から、次に自分ができる物理的な行動を決定して、実行していくことになります。
 これは、最初の収集を行った後に行うだけでは、もちろん不十分です。また、処理は収集以上に時間と労力がかかるプロセスになります。『ストフリ整理術』では、収集には6時間以上、処理には「さらに」8時間ほどかかると書かれています (ibid. p.87)。
 また、処理を行うということは、inbox を単に空にすることではありません。一つ一つの事柄に対して、取るべき行動を見極めることです。書類1枚に対しても、その書類の目的を考え、その実現のための行動を与えることが求められているのです。
 最初の収集、処理が終わった後も、inbox に何かがやってくる限り「行動とは別に」常にこのプロセスを繰り返す必要があります。週次レビューは、inbox に入れ忘れたものを収集し、様々なリストを見直すために行うもので、inbox の処理を行うためだけのものではありません。

誤解その4 「GTD では ToDo リストに縛られず、次々に仕事をこなしていけるようになる。」

 GTD では ToDo という言い方はあまりされないようです。従って、ToDo リストというものを考える限りでは、この考え方は正しいかもしれません。しかし、実際にはさまざまな「行動リスト」に従って、行動することになります。
 従来の ToDo リストがやるべきことを列挙しているのに対して、GTD の「行動リスト」にあるのは、あくまでも「行動」です。その行動は、時間的、空間的にひもづけられています。例えば、電話の前にいる時にする行動、お店にいるときの行動、ちょっとした時間がある時にする行動……。その場その時の状況に応じた行動リストに従って行動するという点において、ToDo リストよりも厳密に縛られた行動をとり続けることになるかもしれません。
 また、行動にはあらかじめ優先順位を考慮する必要もありません。そこに並んだものから適宜判断してこなしていけばいいわけです。そのために、あらかじめ「処理」というプロセスを経ているわけですから、行動する時になって判断するというのは、無駄なだけでなく、本末転倒ということにもなりかねません。行動のために十分考え、行動するときには行動のことだけを考える。それがGTDのあるべき姿ということになりそうです。

誤解その5 「GTD では、すぐに片づけることのできないものはプロジェクトとしてまとめればよい。」

 GTD のプロジェクトはなかなか理解しにくいものです。私自身もきちんと理解できているか、怪しいところがあります。しかし、多くの人にとって GTD の中心となるのは、プロジェクトに違いありませんので、この取り扱いを間違えると GTD による恩恵は受けられないものと思われます。
 プロジェクトの難しいところは、次の2点です。
 まず、一つ目はプロジェクトと行動の関係です。プロジェクトの定義は

"達成するのにひとつ以上の行動ステップが必要な案件" (ibid. p.141)

とありますが、どうやら GTD ではプロジェクトを実行するものとは「考えない」ようです。行動の目標として存在するのがプロジェクトであり、あくまで実現できていないことがらを確認するためのものとして捉えておく必要があります。よくプロジェクトを ToDo リストにしてしまいがちですが、GTD のプロジェクトは実行できる「行動」ではありません。
 そして、これもよくわからないところですが、実際のところ、プロジェクトの実現には大抵、複数の行動を必要としますが、次の行動として決めるべきことはあくまでも「一つ」となるようです。プロジェクトの実現のために、複数の行動を考えた上で、もっとも必要な行動を決めるわけですね。この段階では、その場で2分以内に実行できるか否かを判断すれば十分です。
 inbox の処理が終わった後、これら「行動」の集合を振り分ける、すなわち「整理」を行うことになります。「行動」が、特定の日まで実行できない、もしくはその時まで実行する必要がないものであれば「カレンダー」に、自分でやるべき行動でなければ、物理的行動を「××に……を連絡」として「連絡待ち」に、そして、2分以上かかるものを「次にとるべき行動」のリストにそれぞれ加えます。
 ここまでを整理してみます。まず、「気になること」から「目標」を考えます。この「目標」が「プロジェクト」としてリスト化されることになります。そして、プロジェクトの下には必ず一つの「行動」が存在する……という形になるわけです。
 次に、プロジェクトの二つ目のわかりにくい点ですが、プロジェクトの実現に必要な「行動」を行った後はどうするのかということが挙げられます。残念ながら、『ストフリ整理術』を読んでも、具体的にどうすると書いてある箇所は見つけられませんでした。
 ですので、これは私の想像になりますが、行動の結果を inbox に入れるというのが適切ではないかと考えています。そうすることで、再び、収集→処理→整理のプロセスに組み込むことができます。事前にしっかりした処理が行われていれば、適切なプランニングに従って、次の「行動」を決めることができるでしょう。もし、一つ前の行動の結果、次の行動が2分以内でできるものであった場合は、次々にその行動を行うことになるでしょうし、2分以上かかるものであれば、また他の行動と比較して、実行されるのを待つことになります。
 結局のところ、GTD で必要なことはプロジェクトのリストを作ることではなくて、「行動」のリストを作ることです。プロジェクトのリストは、週次レビューの時だけでなく、特にするべき行動がないときや、行動するだけの気力や体力がないときに適宜レビューをして、行動が適切かどうかを判断することが必要であり、そのためにこそ存在していると考えた方が、より上手く GTD を続けていくことができるのではないかと思います。

終わりに

 このように、GTD は何でもできるようになるシステムではありませんし、頭を使わなくてよいシステムでもありません。どういったことに頭を使えばよいかをはっきりと示してくれるシステムであり、頭を使って、行動を伴わないと何も解決しないシステムです。そういう意味で、魔法のシステムではありません。ただ、導入することによって「あれをしないと、これをしないと」と考える、ある意味無駄な時間が減らせるのは何よりだったと思っています。
 このエントリが何かの参考になれば幸いです。また、より詳しい方がおられましたら、間違いや未だに誤解していると思われる点をコメント等でご指摘いただければ嬉しく思います。